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【ささやかな魔法の朝】

 なぜだかここ数ヶ月、素敵な夢を見ることが多い。そして目覚めたとき、自分の胸の奥にかすかなトキメキを覚えている・・・。
 そんな素敵な夢に出てくるのは、きまって昔のボーイフレンドや恋人たち。そして夢のシーンは、私がまだ10代、20代で、恋に浸っていた頃の思い出だっ たり、実際には行ったコトのない場所で彼とデートをしている場面だったり。  
  
 いずれのシーンも、恋の始まりというシチュエーションらしく、夢の中の私はとにかくハッピーで、嬉しくて、胸はピンク色のトキメキで一杯。現実生活の 40代に入ってからは、とんとご無沙汰している甘酸っぱい気持ちで、はにかんでいるのである。
 残念ながら、目覚めたときには、デートでの詳しい内容などはすっかり忘れていて、何がどうなったかは覚えていないのだけれど、とにかく、ただ「トキメイ た記憶」がかすかに胸に残っていて、それがなんともくすぐったい。  
 
 そんなほんわかハートで目覚めた朝、バルコニーに面したブラインドからこぼれる透明な光を薄目で感じながら、「あぁ、なんだか素敵な夢、見ちゃったわん ♥」なんて横を見ると、もう長〜い付き合いの夫がまだ寝息を立てている。隣りに横たわる現実を感じながらも、夢の中では私はシングル、素敵な恋をしたわ ねーと、若かった頃の自分を振り返る。もう少しだけ、過ぎ去ったトキメキに浸ろうなんて思う。
 そうして、「はぁ〜」っと、ちょっと昔の自分、あの頃の恋に溜め息をついたりしたら、カチャッと音がして、寝室のドアが開いた・・・。  

 トコトコトコっと、小走りで入ってきたのは、4歳の娘。私の横たわるベットサイドに立つと、小さな声で「お母さんの横に、入っていい?」と聞く。
 微笑んでブランケットを持ち上げて、娘を入れる。ベッドに上がってきた娘は、いつものように私の胸の中に入ると背を丸め、私にいだかれるようにして、目 をつぶった。  

 「じゃぁ、お父さんが起きるまで、もうちょっと一緒に寝よっか?」私の囁きに、娘はコクンとうなずいて、目をつぶったまま、ちょっと微笑んだ。私も同じ ように微笑み、目をつぶった。
 背中に人生を分かち合うパートナーの寝息を感じながら、腕の中に、自分の命を分けた、かけがえのないものをいだき、こぼれる朝日に包まれながら、私は幸 せに浸る。  
 そうして、そんな真綿色の幸せに包まれた私の心は、まだ夢の余韻で、ちょっとだけピンク色のトキメキを残している。なんだか得をした気分の朝。そんな風 に朝を迎えた日は、いつもよりちょっと綺麗になれる気がする。・・・そんな気がするから、本当に素敵になれる。自然に、幸せに微笑むことが出来る。
  トキメキの夢は、ささやかな魔法。朝のおとずれと共に解けてしまう魔法だけど、私の胸の奥に、ピンク色に光る粉を振り撒き、小さいけれどいつまでもキラキ ラって、輝かせてくれる。そして、そんなささいな夢で素敵な気分になれるのは、隣りの寝息と、腕の中の命のおかげねぇ・・・なんて思いながら、私はまたう つろうつろ、夢の世界に戻って行くのだった。